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東京地方裁判所 昭和41年(手ワ)742号 判決 1966年9月13日

原告 株式会社鈴木商店

原告 鈴木裕幸

右両名訴訟代理人弁護士 高橋秀雄

被告 入沢一介

右訴訟代理人弁護士 内藤功

主文

被告は原告鈴木商店に対し七二万二、〇〇〇円およびこれに対する昭和四〇年三月二日から完済までの年六分の割合による金員を、原告鈴木裕幸に対し三〇万円およびこれに対する昭和四〇年四月二日から完済までの年六分の割合による金員をそれぞれ支払わなければならない。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は仮りに執行することができる。

事実

原告ら訴訟代理人は主文同旨の判決および仮執行の宣言を求め、その請求の原因として次のとおり述べた。

一、被告は東京都板橋区大山西町五七番地山田製作所代表山田照夫の名義を用いて次の約束手形各一通を振出した。

(一)金額 二七万二、〇〇〇円

満期 昭和四〇年一月三一日

支払地 東京都北区

支払場所 日ノ出信用組合滝野川支店

振出地 東京都板橋区

振出日 昭和三九年一一月七日

受取人 有限会社入沢商店

(二)金額 二〇万円

満期 昭和四〇年二月二日

振出日 昭和三九年一一月二四日

その他の記載事項(一)の手形と同じ。

(三)金額 二五万円

満期 昭和四〇年三月一日

振出日 昭和三九年一一月二一日

その他の記載事項(一)の手形と同じ。

(四)金額 三〇万円

満期 昭和四〇年四月一日

振出日 昭和四〇年一月二五日

その他の記載事項(一)の手形と同じ。

二、前記(一)ないし(三)の各手形には受取人の有限会社入沢商店の白地式第一裏書があり、原告鈴木商店は右裏書のあるこれらの手形を所持している。

前記(四)の手形には受取人の有限会社入沢商店の白地式第一裏書があり、原告鈴木裕幸は右裏書のある手形の所持人となったが、これを訴外鈴木ハルヨに白地式裏書により譲渡し、同人から買戻して再び所持人となった。

三、前記(一)の手形は満期の翌日に、(二)ないし(四)の各手形は各その満期に支払場所に呈示されたがいずれも支払がなかった。

四、前記振出人の名称である山田照夫は、被告の別名であって、被告が前記各手形の振出人であるから、被告はこれらの手形について振出責任を負うべきである。

仮りにそうでないとしても、被告は仮空人名義でこれらの手形を振出したものであるから、手形法第八条に準じてやはり手形振出の責任を負うべきである。

五、<省略>。

被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、「原告主張の各手形を被告が振出した事実を否認する。その余の事実は不知。」と答弁した。

〔証拠関係〕<省略>

理由

先ず本件手形の振出人が誰であるかについて考察するのに、本件各手形である甲第一ないし第三号証の各一および第九号証の表面には振出人の名称として山田製作所代表山田照夫名義の記名および山田という印章が押捺されていることが認められる。

原告は右山田製作所代表山田照夫という名称が被告の別名であって、同人を表示するものであると主張しているのであるが、原告会社代表者本人尋問の結果によって真正に成立したものと認められる甲第六号証の一ないし四によっても、右名称が被告を表示するものとは認め難いしほかにはこれを認めるのに足りる充分な証拠はない。

しかしながら、前記甲第六号証の一ないし四、証人風間良造の証言により真正に成立したものと認める甲第七号証、同証人の証言および被告本人尋問の結果を総合すると、本件手形の振出人の前記記名、捺印は、被告がしたものであり、前記山田製作所代表山田照夫という名称は本件各手形の受取人として記載してある有限会社入沢商店が銀行取引の都合等の理由から同会社の別名として用いているものであること、本件各手形の振出人名義として前記の名称を用いたのは、前記会社の銀行取引が前記名称でなされていたという理由のほかこのようにすればこれらの手形の受取人として記載された前記会社がこれを原告に交付する場合に恰も第三者振出の廻り手形(商業手形)のような外観があって手形の信用が増すという理由もあり、以上のような理由により本件各手形に前記名称が用いられたのであって、被告は本件各手形を、前記会社の代表者として同会社が振出すものであるという意識のもとに前記の記名捺印をし振出したものであることがそれぞれ認められこの認定に反する証拠はない。

そして、原告会社代表者、原告鈴木裕幸および被告各本人各尋問の結果によると本件各手形は受取人の前記会社から一部は原告会社に対する商品取引の代金支払のため、一部は同会社が原告から手形割引を受けるためにそれぞれ原告らに交付されたものであるが、これらの手形は受取人の前記会社が振出人からその商取引に基いて取得した手形であると説明されて原告らに交付されたものであること、しかし、振出人の名称として用いられた前記名称の者は前記会社が銀行取引名義として使用したことがあるほかには実在しないものであることの各事実を認めることができる。

また原告代表者本人尋問の結果によれば、原告らは本件各手形を取得するに当り、前記振出人の名称が受取人の有限会社入沢商店とは別人であると考えていたことが認められ、以上の各認定に反する証拠はない。

そうだとすると、以上の各事実関係のもとでは、原告らが、手形の外観を信頼して本件各手形の振出人として記載された前記山田製作所代表山田照夫という者が前記有限会社入沢商店とは別人であると思いこれが仮空人であると主張している限りは、被告はこれが右会社を指すものであると主張してこれを原告らに対抗することはできないものと解すべきであり、手形法第八条の趣旨を類推して実際に前記振出人の記名捺印をした被告が手形振出について責任を負うべきものと解される。

しかして、本件各手形である前記甲第一ないし第三号証の各一、第九号証の表面には原告ら主張のとおりの手形要件の記載があり、証人風間良造の証言と被告本人尋問の結果とによれば、これらの手形要件はすべて被告の意思に基き記載されたものであること、また原告会社代表者本人、原告鈴木裕幸本人各尋問の結果および文書の方式と趣旨とを総合してすべて真正に成立したものと認められる、甲第一ないし第三号証の各一の裏面の記載および同号証の各二、第九号証の裏面の記載および付箋によれば、本件(一)ないし(三)の各手形には原告会社主張のとおりの白地式裏書があり原告会社はこれらの手形の所持人であり、また本件(四)の手形には原告鈴木裕幸主張のとおりの白地式裏書があり、同原告は一旦訴外鈴木ハルヨに白地式裏書によりこの手形を譲渡したがこれを取戻し、同原告はこの所持人であること、本件各手形は原告ら主張のとおり呈示されたことの各事実が認められるから、原告らは本件各手形のそれぞれ適法な所持人であると推定されこの推定を破る証拠はない。

以上の各事実によると、原告らは被告に対し、本訴請求のとおりの手形金および利息金の債権を有することは明らかであり、、原告らの請求は理由があり、

<以下省略>。

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